最新スーパースポーツバイクのステムとフロントフォークに思うこと

バイクを分解していると、異なる製法のどちらが正しいのか、あるいはどちらも正解で製作コストの問題なのか、よく分からない事があります。最近はスーパースポーツ車のフロントフォークとステムの嵌合について考えます。

ホンダ CBR1000RRのステムとフロントフォーク

左の画像はCBR1000RRのステムとフロントフォークです。

最近のスーパースポーツによく見受けられますが、画像の状態でステムのボルトを緩めても、フォークはするりと抜けません。

ホンダ CBR1000RRのステムとフロントフォーク

左の画像のように、ステムの隙間をドライバーで少しこじるとフォークは抜けます。

ステムのボルトを緩めても、ビクともしないので感心します。極端な話、ステムやトップブリッジのボルトのトルクがゼロの状態でも、下道を法規走行をする程度の速度で、何かに乗り上げて底つきでもしなければ、フォークはステムから動かないかもしれません。

この嵌合方式であれば、ステムの締め付けトルクは、嵌合が緩いステムより弱く出来るのではないかと思います。

メーカーの苦心

整備現場の整備士の全員が優秀な訳ではありません。
メーカーの開発者は、整備士の名人芸や職人芸に頼らない、安定した製品を設計、販売したいと願い苦心していると思います。

ステムを過大なトルクで締めると、倒立フォークのアウターの円筒は歪み、上部から見た円筒の断面は真円とはならず楕円となってしまいます。楕円のもっとも狭い箇所とインナーチューブが擦れてフリクションが増大し、著しく機能は低下します。

ここ最近の国産のSSのフロントフォークのアウターの外径は、ほとんどはトップ側が50φ、ステム側が54φで共通しています。このあたりの肉厚が、歪みが少なく軽量で剛性が確保出来る寸法の限界値なのでしょうか。もっともこれは市販車の話です。競技車両の寸法はどうなのだろうかと興味は尽きません。

モトグッチやBMWのステム設計

また不思議なのは、昔のグッチやBMWのR100シリーズのツインサスやモノサスの最終型より前のモデルまでは、現代のスーパースポーツと同じようにステムの嵌合がたいへんキツイのです。

正立のインナーチューブは倒立フォークのアウターとは違い、ステムのボルトを締めこんでそれほど歪むとは思えません。
なぜ、こういった工法を選んだのでしょうか。ステムの穴の精度を高めインナーチューブとの面圧をきれいに分散させ、
ステム付近の剛性を確保させたかったのだろうか。縦置きシャフトドライブのグッチやBMWには、このあたりの剛性が必要だったのだろうか、しかしR100モノサスの最終型のステム嵌合は緩くなりました。
それによって、この最終型の走安性が問題になったという話は知りません。

嵌合のきつい正立フォーク

インナーチューブの肉厚が太い正立フォークの場合、嵌合がきついのは整備性、作業性の悪化というデメリットはありますが、嵌合がきつい事にメリットはあるのでしょうか。

距離を多く走った車体の一部に、インナーチューブのステムと嵌合する場所のメッキが痩せている車体があります。嵌合の精度が悪いとステムとフォークの嵌合は、線接触、点接触となってしまい、そこから微小なガタが発生してフォークは微小に動いてしまい、メッキが痩せるのでしょうか。

本来、ステム嵌合はきついのが理想で、製作コストの問題で緩くなっているのでしょうか。
現代のSSのステム嵌合は、こういった剛性確保も兼ねているのでしょうか。どうにもよく分かりません。

下手なカスタム劣化に似たり

以前、友人がカワサキのZ650に社外品のスタビライザーを装着しました。正立フォークのダウンチューブ上部に挟むタイプです。
試しにブレーキを握ってフロントフォークを上下に動かすと、フォークの動きがとても渋くなったので犯人はスタビだなと理解しました。

確かZ650のフォークはスライドメタルがないタイプですから、スタビライザーを装着する事によってますます動きがひどくなりました。部品を購入し装着して満足していた友人は、見栄えに満足しフォークの作動性に注意が向かなかったようです。

危険なスタビライザー

三分割のスタビライザーのボルト4個を緩めると、フォークの動きがよくなり、友人は驚いていました。
当然ですが、ボルトを完全に緩めてフリーにすると、フォークは一番よく動きました。この状態のスタビライザーは、もはや部品どころかドレスアップにも危険な代物です。

上記の社外品の話は相当にレベルの低い話ですが、部品を最高に、もしくは最良に動かし機能させることは大変です。私はスーパースポーツ車を使い切る能力がないので、現代のスーパースポーツモデルの良さや楽しさへの理解に乏しいのですが、スーパースポーツ車の進歩の具合はいつも感心し、メーカーの技術者を尊敬します。